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      いまの時代を過ごすのに相応しいファッションとは、どんなものなのか? スタイルのあるクリエイターの日常からそのヒントを探し出す連載「New Daily Life」。今回登場するのは、アーティストのtofubeatsさん。中学生の頃からトラックメイカーとして楽曲制作を行い、ネット上で音源をリリース。その活動がメジャーレーベルの目に留まり、自身が影響を受けた森高千里や藤井隆といったアーティストともコラボレーションを行うなど、一躍スターダムに駆け上がりました。自身の作品をリリースし続ける一方で、メジャーアーティストのリミックスワークも手がけるなど、プロデューサーとしての手腕も発揮しています。

      そんな多彩な活動で支持を得るtofubeatsさんですが、そのイメージには一貫性があります。彼が鳴らす音はエレクトリックでありながらも、どこか有機的であり人のぬくもりを感じさせます。自身の力を過信することなく、ひとえに音楽と真摯に向き合いながら、一方では挑戦する気持ちも忘れない。そんな姿勢が垣間見えるのです。メディアで語られる言葉はどれも音楽に対して謙虚かつ実直なものばかり。つまりそれは、ブレがないということ。

      そうした “一貫性” は彼のファッションにも表れています。自ら「コンサバな服が好み」と語るtofubeatsさん。その裏側には、出身である神戸の街と、音楽からの影響が垣間見えます。

      「地元、神戸の街は派手な人があんまりいないんですよ。コンサバな格好の人が多いし、実際に自分もシンプルな服が好きなんです。音楽をやっていてそうなったという部分もありますね。自分自身よりも、音楽に注目してほしいという気持ちが強いので。だから服装を派手にしたいと思わないんです」

      とはいえ、彼の服装は決して地味ではありません。今回のスタイリングもトラディショナルでシンプルにまとめつつも、どこか主張を感じます。隠し味の効いた料理のように、シャツやシューズ、時計など、随所に遊びココロを忍ばせているのです。

      コート ¥60,500、シャツ ¥22,000、パンツ ¥27,500、腕時計 ¥70,400、スニーカー ¥60,500(すべて税込)

      「派手な服は着ないと言いつつも、実は柄シャツがすごい好きなんですよ(笑)。このシャツもレコードの柄がプリントしてあって、かわいいですよね。でもコートやパンツはポール・スミスらしいきれい目な印象で、UKらしいタイトさも感じるところが気に入っています」

      ストレッチが効いていて、体の動きに合わせて伸縮するコート。畳んでもシワになりにくく「めっちゃいいですね」とtofubeatsさんも太鼓判を押します。

      「クラブに行ったときとか、上着をラフに置いたりするんですよ。それをまた着るときにシワくちゃになっているとテンションが下がる。だからシワになりにくいのは嬉しいですよね。シャキッと見られたいという願望もあるので(笑)」

      「ポール・スミスといえば、財布などの革小物のイメージがありますね」と語るtofubeatsさん。服に袖を通すようになったのは20代半ばの頃でした。

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      「自分は神戸出身で、仕事で京都に行っていたときに路面店の前をよく通っていて。お店に入って服を見ていると、柄シャツが結構たくさんあったんです。ここ何年か開襟シャツが流行ってましたけど、自分はあんまり着ないんです。でもポール・スミスへ行くとレギュラーカラーのシャツがあって、シルエットや形はトラディショナルなのに、面白い柄のものがあったから買って着ていましたね」

      ユニークな柄のシャツを好むという通り、いきつけのレコードショップでもジャケットのアートワークを手掛かりにレコードを探すこともあるそう。「中身を知らなくてもノリで買うことがあります(笑)」と表情を崩しながら話します。

      「DJをするとき、レコードは使わないんですけど、なんだか買いたくなっちゃうんですよ。レコードの方が音いいって言われますけど、そうした違いよりも、記憶に残るかどうかが重要だったりもします。CDは簡単にパソコンにデータを取り込める一方で、レコードは聴くのに手間がかかるから、買った曲は忘れにくい。だから買うんです」

      都内にあるtofubeatsさんのスタジオ。一昨年に神戸から東京へと拠点を移し、自宅の近くにこのスタジオを設けました。気兼ねなく音楽がつくれる防音室を備えた部屋には、機材やケーブル、それに書籍などが棚に並んでいます。彼はここに来ることをあえて “出社する” と表現します。

      「近くに自宅があるんですが、部屋着の格好で来ないでちゃんと着替えて来るようにしています。それによってオンオフを切り替えてますね。シャツを着ると背筋がピシッと伸びるというか、そういう服のほうが頑張ろうっていう気持ちになるし作業が捗るんです」

      ブルゾン ¥33,000、シャツ ¥26,400、パンツ ¥28,600、腕時計 ¥38,500、スニーカー ¥49,500(すべて税込)

      この日は彼がお気に入りのシャツで出社。これはロンドンの街のグラフィティをイメージしたというデザインで、スプレーで描いた “Paul Smith” の文字がプリントされています。その上からアーティストストライプが効いたブルゾンを羽織ることで、シャツを生かしたモダンなスタイリングになりました。トラッドをポップな配色で上手に崩したスタイルが、ロンドンの街を行き交う若者たちの着こなしと重なります。

      「イギリスの音楽がすごく好きですね。とくに80年代以降のもの。UKのソウルや、ディスコもヨーロッパのものが好きですし。自分がつくる楽曲もそうした音楽からの影響を多分に受けています。ヨーロッパっていろんな物事を正面突破じゃなくて、多角的に眺めている感じがして。例えば、アメリカの音楽は力強さがあるイメージなんです。でも、ヨーロッパはそれをもうちょっとシニカルに表現しているというか、そんな感じがする。あくまで個人的にですよ(笑)。そういうところに共感して、自分でも音楽をつくっていますね」

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      東京に拠点を移したことによって、「さまざまなことが変化した」と語ります。スタジオを設けたことで制作環境が整い、楽曲のクオリティがアップしたこと。それに加え、「紛れることができるようになった」と興味深いことを教えてくれました。

      「神戸にいるときは、“神戸代表” みたいな意識が少なからずあったんです。でも、人が多い東京に来たことによってそれが紛れる感覚があって。そういう意味では自分の立ち位置が変わったことを感じています。神戸で起きていることは自分ごとのように感じるけど、東京はシーンも大きいし、“自分の居場所” という認識にはまだなっていなくて。だから肩の荷が下りるような感覚というか、もっと気軽に好きなことをやれるようになりましたね」

      しかしながら昨年は新型コロナの影響でライブやDJなどの出演が減少。その分、より制作に没頭できるようになったと話します。

      「ライブではここに置いてある機材を使うんですけど、終わって戻ってきたらまた元通りにセッティングし直さないといけないんです。忙しいとそうした作業にストレスを感じたりするんですけど、コロナによってライブの本数が減ったので、煩わしさを感じることがなくなりました。それは自分にとって大革命で、つくる曲のクオリティにも大きく影響しています。あとはいろんなことを試せるようになったのが個人的には大きくて。音楽をつくる際に、一つひとつの曲をより深みを持ってできるようになったのは嬉しいですね」

      「10年間、週末はずっとDJをやっていたのが一気になくなって、土日休みに慣れてしまった」と笑いながら話します。とはいえ、アーティストとして人前に出たいという欲求もなくなってはいません。

      「この1年で生活がだいぶ規則正しくなりました。それはそれでいいことだけど、気持ちがモヤモヤとしたときにクラブへ行ってそれを発散できないのも不健康だと感じる自分もいて。トレードオフですけど、身体と精神の健康をはかりにかけている感じはしますよね。自分ってDJとか好きなんだなって、この状況になって気づいた部分はあります。お客さんいっぱいいるし、緊張するし、ちゃんと盛り上げなきゃってプレッシャーを感じていたんですけど、それができなくなって寂しく感じる自分に驚いたというか。だから早く通常の暮らしができるようになってほしい。そう願うばかりです」

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      最後に今後の目標ややりたいことについて尋ねると、こんな答えが返ってきました。

      「いい曲をいっぱいつくりたい。それに尽きますね。それで人に喜んでもらえたら最高っていう。でも、スタジオができたからといってそれが簡単にできるようになったわけではないんです。むしろキャリアを重ねてこうした環境が整う時期って、デビューしたての血気盛んな状態と違って、落ち着きはじめた頃だと思う。だからそういうジレンマを抱えながらも、知恵を絞りながらどうやっていい楽曲をつくっていくか、というのは自分でも見ものだと思ってます。頑張るしかないですね」

      tofubeats

      1990年生まれ、神戸出身。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生のときに国内最大のテクノイベント「WIRE」に史上最年少で出演する。その後、「水星feat.オノマトペ大臣」が「iTunes Store」シングル総合チャートで1位を獲得。メジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと 数々のコラボを行い注目を集め、4枚のアルバムをリリース。ドラマ「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」や映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ多方面で注目されている。2020年は3月27日にデジタルミニアルバム「TBEP」を発表し、8月にはシカゴハウスの名門レーベル〈DJ INTERNATIONAL〉の「TC Crew」に所属するTyree Cooperのカバー楽曲「I CAN’T DO IT ALONE」をデジタルリリース。9月4日には「RUN REMIX (ft. KREVA & VaVa)」を含むミニアルバム「RUN REMIXES」を発表。

      Produced by Rhino inc.

      Cooperation:JET SET Tokyo