ポール・スミスは、ロンドンの由緒ある老舗ホテルのひとつである、Brown’s Hotel（ブラウンズ ホテル）のスイートルームをデザインしました。そこには、ポール・スミスのトレードマークである色使いやストライプ、ウィットに富んだユニークなセンスが溢れています

メイフェアにあるBrown’s Hotel（ブラウンズ ホテル）ほど、由緒あるホテルはないでしょう。1837年、まさにビクトリア朝の幕開けに開業したこのホテルは、当時ロンドンの比較的落ち着いたエリアのひっそりとした通りにありました。今日では、都市の喧騒からすこし離れた、メイフェアの最もラグジュアリーなショップやレストラン、カフェに囲まれた通りになっています。

ブラウンズ ホテルは長年にわたり英国の名だたる著名人、とりわけ文学界の巨匠を迎えてきました。ここに滞在した歴史的な人物たちをほんの一握り挙げるならオスカー・ワイルド、アーサー・コナン・ドイル、J.M.バリー、ブラム・ストーカー、アガサ・クリスティなど。彼らはみなこのホテルの廊下を歩きました。ラドヤード・キップリングはここで晩年を過ごし、彼の名が付けられたスイートルームもあります。

それゆえ、現在ホテルを所有するRocco Forte Hotels（ロッコ フォルテ ホテルズ）に、特別なサー・ポール・スミス スイートのデザインを依頼されたことはポールにとって大変光栄なことでした。「ブラウンズ ホテルは唯一無二で、すべての部屋がまったく異なっています。英国的なホテルで、とてもモダンでありながら伝統を大切にしていて、それは私自身のデザインの取り組み方とも非常に似ています」とポールは語ります。

ブラウンズ ホテルとポール・スミスの関係は何年も前にさかのぼります。まず、ホテルはロンドンの旗艦店であるNo. 9 Albemarle Streetからわずか数メートルの場所にあります。ロッコ フォルテのすべてのホテルとその客室のデザインを担当するオルガ・ポリッツィ氏は、定期的にAlbemarle Streetにあるポールのショップに訪れ、展示されているヴィンテージの家具やアート作品を眺めていたそうです。　　

オルガと密接に協力しながら、ポールはスイートルームのすべてを自ら企画・デザインし、時代を超えたシグネチャーストライプや表現力豊かな色使いなど、自身のデザインの特徴をふんだんに取り入れました。ポール・スミスショップの特徴でもあるアートウォールも設けられ、ポールの友人で写真家のジュリアン・ブロードの作品をはじめ（ここで紹介されているポールのスナップ写真も彼が撮影しました）、ポールが自ら選んださまざまな種類の作品が展示されており、アートに対する長年の情熱が表れています。

「自分にとって大切なものを取り入れることも重要でした」とポールは説明します。厳選されたアートやデザインの本、そして自身のオフィスにも飾られているチャッツワース・ハウスの図書館を写したクリストファー・サイモン・サイクスの大きな写真がその例です。また、マリオ・ベリーニのレザーデスクチェアは、ポール・スミスのコヴェント・ガーデンにあるオフィスで使用しているものと全く同じものです。

ラグやベッドルームのヘッドボードには、Paul Smith No. 9 Albemarle Streetショップの印象的な鋳鉄のファサードがあしらわれています。また、リビングルームには、イタリアの高級家具ブランドDePadova（デパドヴァ）とのコラボレーションソファや、イギリスのAnglepoise®（アングルポイズ®）とコラボレートしたType75のランプも配置されています。さらに、ブランケットやクッション、タオルなど、ポール・スミスのホームウェアコレクションのアイテムがあちこちに散りばめられています。

ポールのトレードマークであるウィットとユーモアのセンスは細部にまで表れています。例えば、暖炉の火の「犬」は、ポールの最初のショップのマネジャーだった犬のホーマーを模して特注したものです。同じく、バナナの形をしたブロンズのドアハンドルも。「昔からドアとドアハンドルは、握手のようなものだと思っていました。それらはこれから入っていく空間の第一印象を与えます。スイートルームに入った瞬間に、楽しさと自由を感じてもらいたいのです」とポールは説明します。

このスイートルームは唯一無二のものであり、ポールが目指したのはくつろぎと同時に創造性を刺激する空間を作ることでした。そして、次のように語ります。「私はずっと、インスピレーションはどこにでもあると信じてきました。でも、クリエイティブな空間にいるとき、想像力豊かなオブジェやアート作品に囲まれているとき、インスピレーションはより簡単に得られると思うのです」